「どこ行きたい?」
「すいぞっかん行きたいなあ」
井苅の問いに倅は返える。倅は小学2年生。動物園だの遊園地だの虫取りだのその手のものが大好きな年頃だ。
そしてその手のものは案外入場料がかかる。
もう朝からビールをあおってる井苅なので今日は運転できない。
となるとバスとタクシーを乗り継いで、さほど遠くない場所にある水族館と言えばここしかない。
どうせ電車で沼津駅から東京へ帰るのである。
帰り道は狩野川の河川敷でも散歩がてらに行けばさほど時間もかからない。
探検気分で歩けば倅も楽しめることだろう。
平日とは言えまだ夏休み。沼津港は案外混雑している。
入場券を買う列は外まで続き、館内も水槽に見入ったり写真を撮ったりする人たちが連なっている。
どうせ観光地のぼったくり施設だろうとあきらめつつ入場料を払った井苅だったが、
なかなかどうして興味をそそられる深海生物ばかりである。
倅と一緒に奇妙な生物たちに見入ってしまう。
やはりメインのお楽しみは水族館にその名を冠したシーラカンスである。
もちろん生きて水槽を泳いでいるわけでは無い。
剥製が3体に冷凍が2体。
その威容に見る者は思わず惹き付けられてしまう。
ふたりがシーラカンスに見入っていると、職員によるシーラカンスの生態や展示の説明のイベントが始まる。
「研究者がシーラカンスを食べてみたそうです」
曰く、「濡れた歯ブラシを食べているようだった」との事。
それには倅を含め子供たちは大受けである。
「パパ、ぬれた歯ブラシってどんな味?」
倅はにやにやしながら井苅に問うのだった。
(27.10.6)