「せんしゃ、みにいきたい」
井苅の息子は最近アニメ『ガールズ&パンツァー』にハマっていた。
もちろんそれは親である井苅の影響であることは言うまでもない。
東京近郊で戦車が展示してある場所と言えば朝霞駐屯地陸上自衛隊広報センターりっくんランドであり、そこが一番気軽に行ける場所である。
「でもさあ、今日は雪の予報で寒いしやだよ」
「いきたい、いきたい、いきたい!!」
仕方なしに出かける準備をする井苅だった。
平日でしかも雪の日ともなれば広報センターは閑散としている。
勤務する自衛官も退屈そうである。
「どうです?本物の迷彩服着られますよ?」などと声をかけられたりする。
「いや、わたし予備自衛官でして、数日前に着たばかりです」
そんなことよりも倅は戦車である。
「すごい!ぱーぱ、せんしゃだよ!」
井苅の手を引き屋外の展示スペースへ。その頃には外はすっかり雪模様。
「ぱーぱ、このせんしゃ、がーるずあんどぱんつぁで、がくえんちょうのくるまをこわしたせんしゃだよ!」
よく覚えてらっしゃる。まさにその通りの陸自最新鋭の10式戦車である。
井苅もこの戦車の実物を見るのは初めてである。
しかしマニアの方々から「これは試作1号機で量産機では無く云々」とつっこみが入りそうだ。
「ぱーぱ、よんごうせんしゃとか、はちきゅうしきとか、ここに、あるの?」
いや、それは時代も国も違って…、いや、土浦の武器学校に何か古い戦車があったような気が…。
武器学校の研修にへ行ったのは井苅が新隊員教育隊にいた頃であり、前世紀のことであり、それからもう十数年経っているので記憶が定かではない。
駐屯地解放の日に武器学校の見学に行けばガルパンに出てきたような戦車を見られるかもしれないな、と思う井苅だった。
倅は戦車が見られてその他自衛隊の装備が見られてご満悦のようである。
「ぱーぱ、これほしい」
広報センター内の売店で戦車の玩具をねだる倅だった。
自衛隊体操
(25.5.1)