(撮影
pelleteriaさん)
春のある日の昼下がり。
西雑司が谷遠足同好会会長こと井狩和斗志は革命少女こと青江麻央と喫茶店でお茶していた。
「ところで師匠。いつもとバッグが違うようですがそれは…」
「おお、よくぞ訊いてくれた!」
入店してから意味もなくバッグから物を出したり入れたりする井狩の不審な行動に、さてはバッグのことに触れてもらいたいのではと、いくら鈍感な青江でもそのくらいは想像がつくのである。
待ってましたとばかりに、…実際今か今かと待っていたわけだが、井狩は語り始める。
「いやあ、今まで使っていたAcru(アクリュ)のカウハイドカメラバッグは俺の使用法ではいろいろと問題があってだな、それで新たにバッグを探していたんだが……」
要約しよう。
Acruのカウハイドカメラカメラバッグはミラーレス一眼カメラNEX-5本体と交換レンズ2本を入れて持ち歩くのみであれば特に問題無く使用出来た。
しかし、それで既に容量いっぱいであり、途中で入手した物品を入れる隙が全く無いのだった。
カメラ保護のために全体に緩衝材が入っており、特に底面が硬いためそれは箱を持っているのと変わらず身体に対しまるでフィット感が無い。
遠足会での使用に関して言えば井狩にとっては不満点が多くストレスが溜まってきていたのだ。
「だからさ、コンパクトかつ大容量である程度緩衝性があり身体にフィット感があるカメラ用バッグが欲しかったわけよ。それでその要望を伝えてオーダーしたわけで……」
「え?オーダー?これって既成品じゃないんですか?いったいどこで?」
「雑司が谷に
pelleteria(ペレッテリア)と言う鞄屋さんがあってだな、仕事で店の前を通ったり訪問したりで以前から気になってたんだ。それでふとしたきっかけでオーダーすることになった」
左pelleteriaのバッグ右Acruのバッグ 外寸にさほど差は無い
案外深い 500mlのペットボトルを縦に入れても蓋が閉まります
「この蓋の構造だと開いた時に手で抑えなくてもいいんだよ」とは店主の弁 確かに便利
綺麗な金具 しかしショルダーストラップ使用だとちょうどカメラがこの位置に当たります
カメラが金具に当たらないようにカバーを取り付けてもらいました
「よく見るとなかなか凝った作りですね。この肩に当たる部分なにげに可動式だったり」
「だろう?これがまたフィット感を生んでるわけだ。革は柔らかい感じだがこれが緩衝効果を生んでたりするんだが、しかし底面には低反発の緩衝材が入ってかつ板状になってるから、荷物が片側に寄ってもヨレたりしないんだ」
まるで自分の手柄のように話続ける井狩。
「へー、すごいですねさすが師匠。なかなかすごいアイディアを出しましたねえ」
「……」
「え、どうかしたんですか?」
「い、いや、これは全てpelleteriaさんのアイディアであって、俺が具体的な案を出したのは金具カバーだけで…」
青江の目がきらりと光る。さすが革命少女の異名を持つだけあって相手の弱みは見逃さない。
「えー!?それじゃ師匠は他人のアイディアをまるで自分の手柄のように…」
焦った井狩は慌てて青江の言葉をさえぎる。
「だ、だからさ、いかにpelleteriaさんが凄いかって話だよ。こっちがいろいろとわがままな要望出してさ、それを数ヶ月いろいろと考えてくれて形にしてくれてさ、それで想像以上に素敵なものを作ってくれたかって話をだなあ、だって、デザインから縫製から全部ひとりでやってくれてさ、それを機能面から説明してるわけであって……」
(撮影 pelleteriaさん)
苦しい言い訳を続ける井狩を今度は青江がさえぎる。
「これってグレーですか?そこにレッドってなかなか変わった配色ですよね?もちろん師匠のセンスじゃ無いですよね?」
「う、なんだその意地悪そうな笑みは。そうだよ、俺のセンスじゃないよ。
最初この色見た時はまるで教育隊時代に使ってた背嚢や防護マスクのバッグの色に似てたんで衝撃を受けた。グリーンはアーミーカラーだからやめてくれとは注文つけといたんだがこっちで攻めてくるとは…」
「ふふふ、でもレッドは入ってないですよ」
「ああ、俺はこの赤い色に惚れた。抵抗していろいろと合わせてみたがこの配色以上のものは見当たらなかったことも確かだ」
そう、最終的に井狩が決断したのはpelleteriaさんの「日本人は本当はグレーが似合うとおもうんだよね」との言葉だった。
ははあ、そんな見方もあるのかと感心しつつここは店主のセンスを信じることにした。
『迷ったら専門家に身を委ねよ』とは井狩の最終決断法である。
おかげでこの素敵な配色のバッグが無事納品とあいなったわけである。
「ふふふ、素敵ですけどグレーとレッドでまるでウルトラマンみたいですね」
はっと大きく目を見開いて井狩は青江を見据えた。
「ご、ごめんなさい!別に悪気じゃなくて…」
怯える青江をよそにし井狩はバッグを見つめて感慨深げな様子。
「なるほど、そんな見方もあるのか。それは面白い」
pelleteria外観 お店は雑司が谷2丁目 目白通りと不忍通りの交差点付近です
「ところでこれって幾らぐらいしたんですか?」
なかなか魅力的なバッグである。ある程度自分の用途に合わせてもらえるのであればオーダーと言う選択肢もありじゃないかなと青江も考えていた。
「まあ、それはそれなりに…」
「なんで言葉を濁してるんですか?」
もじもじと身体を揺らしていた井狩だったが意を決したように言う。
「あのなあ、万が一おまえの口からかみさんに伝わったりすると非常にまずいんだよな」
「……」
「そりゃブランド物に比べりゃ全然だよ。しかしだな、ここまでいろいろ要望に応えてもらっていい出来でこの金額だったら安い買物なんだって主張しても納得されない世界がこの世にはあるんだ。だからだなあ…」
とりあえずAcruのバッグよりは高いらしいことが青江にも解った。
「で、肝心な使い心地の方はどうなんですか?」
満面の笑みで井狩は答えた。
「最高だ」
(24.4.30-5.18)
ブログ Voice of Customer & Pelleteria 『NOZ3 カメラバッグ制作記』 …Pelleteria店主による本格カメラバッグの制作記録(当ブログ記事とは異なるタイプのバッグの制作記です)
西雑司が谷遠足同好会日誌
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