アムラックス東京『アイドルマスター』仕様痛車前での邂逅

  • 2011.10.25 Tuesday
  • 21:00

                   651.JPG

とある平日の夕方のこと。
区役所で用事を済ませた会長は池袋にあるトヨタアムラックスに居た。
なにやら、ペレストロイカ斎藤と言う人物の置き土産で『アイドルマスター』仕様の痛車が展示されているとのことなので、ことのついでに立ち寄ってみたのである。
もちろん会長は『アイドルマスター』がゲーム作品であることを知らないし、まして、現在深夜にアニメ放送が行われていることも知らない。
“痛車”とはどんなものなんだろうとの興味半分冷やかし半分で訪れただけである。

首都高高架下の出入口をくぐるとすぐ目の前に萌え色にデコられたプリウスが鎮座していた。
ははあこれかと思いながら興味なさげに眺める会長。
会長のすぐ傍らでは中国人カップルが興奮気味に記念撮影をしていた。
「ねえ写真撮るからそこに立ってよ」「やだよ恥ずかしい」「えー?いいじゃん」「俺が撮るからキミがそこに立てよ」…言葉は解らずともそんな内容のやりとりをしていることは容易に想像がついた。
会長もカメラを取り出すと、世間一般の人が想像するような典型的なオタク然とした青年たちに混ざってぱしゃりぱしゃりと撮影を始める。
あまり納得できる写真が撮れなかったがそれはレンズが悪いせいであると結論付け、さて帰ろうかなと出入口に向かいかけた時に「会長さん!」と名前を呼ばれたのである。

               646.JPG 649.JPG
               657.JPG 653.JPG

会長が振り返って見るとそこには20代前半と思しき女性が立っていた。
「ああ、やっぱり会長さんだ!ご無沙汰です!」
はて、いったいこの女性はどこの誰だろう。なんで俺の名前を知っているのだ?知りあいだったかな?
「えーっと、あのう…」と戸惑う会長。
「ええっー!?まさか覚えてないんですかあ!」
どこかで会ったことがあるような見覚えがあるような顔立ちだ。
「会長さんひどいなあ。ほら、渋谷の飲食店で一緒に働いていた…」
もう何年前になるんだろう。毎日のように顔を会わせてたあの高校生にも似た…。
「あれ?もしかして“革命少女”か?」
ふっと女性が苦笑する。
「そうです“革命少女”です。でもそれはあだ名です。名前って覚えてないですかあ?」
うーん、と唸る会長。女性の顔を見ながら曖昧な笑みを浮かべる。
「ああっ、やっぱり覚えてないんだ…」
“革命少女”はがっくりうなだれた。

                              654.JPG

二人が最後に顔を合わせてから既に6年以上の歳月が流れている。
他者の顔を記憶することが苦手な会長が覚えていないのも無理もないことだった。
その頃“革命少女”はまだあどけない顔の高校生だった。
「しかしよく覚えてたな。俺なんか当時の記憶はほとんど残ってない」
ほんとに同一人物なのかなあと訝しがるような眼差しの会長。
「忘れるもんですか。なにせ会長さんは“革命少女”の名付け親なんですからねー」

そう、このあだ名は会長が付けたものだった。
まわりから微妙に浮いている天然系の女子高校生との第一印象だった。
ある時、休憩が一緒になり話をしてみて会長は驚いた。
「あたしは革命資金を作るためにアルバイトしているんです」
会長の眼をまっすぐ見据えて身を乗り出してくる。
「バブルホウカイのフキョウからカイフクキチョウにあるといってもそれは国民のジンケンをサクシュしている結果なのです。我々のジユウはシンガイされシホンカにレイゾクさせられるのです。コウフクツイキュウのケンリとミライの為に我々は闘わねばならない。カクメイするのです」……
勢いに気圧され思わず身を引く会長。
正直意味不明。しかし相手を笑わすための冗談を言っているようには見えなかった。

「あれ以来会長さんが“革命少女”なんて呼ぶものだからそれが店で浸透しちゃって…」
そう、そして会長と革命少女は顔を合わせると政治談議ばかりしていることが他の従業員たちに知られることとなり、会長は“革命少女の師匠”と見なされるようになったのだった。
「革命家風情と同一視されて俺は迷惑だったんだけどな」
元自衛官で国士を自称していた当時の会長からすれば、“革命勢力”と見なされることはなんとも納得できないものだったことに違いない。
「でも会長も維新が必要だ、なんて言ってたじゃないですか。悪しき因習を正すため信念と誇りを胸に闘うのは左も右も同じ志しなんですよ」
だから君等左翼勢力も天皇陛下万歳とひと言でいいから叫びなさい。
さすれば俺も君等と共に闘いに身を投じるだろう……とは、若かりし日の会長が深く影響を受けた三島由紀夫氏の発言の受け売りである。
三島思想の数々をまるで自分の言葉の如く革命少女に吹き込んでいた会長だった。
「同じ志しって…。おまえ、もしかしてまだ……」

                658.JPG

十代の少年少女によくありがちな、何か物語世界の住人であるかのような、虚構と現実の領域が曖昧になるような、そんな若さゆえ幼さゆえの遊戯。
きっとこいつも小説やマンガの影響を受けてなにかのキャラクターになりきっているんだろう。
リアルタイムで三島を知らない会長にとって、三島とはほぼフィクションの存在と言ってもいい。
自分の国士としての姿も半ばキャラ遊戯であったことは会長自身も自覚しているわけである。
それゆえに本気と冗談のあいまった立場で面白がって革命少女に話を合わせていた面もある。
一般的にこの手の過去は黒歴史として封印されるものである。
恥ずかしすぎて当人は触れられることを決して喜ばないばかりかむしろ嫌がるものでもある。
しかしこの女、なぜかあの当時のことを嬉しそうに話すのだ。
会長はふと不安になる。
「あの頃会長さんにはいろいろとお世話になりました。当時の休憩時間のやりとりがあったからこそ今のわたしがあると思ってます。会長さんはわたしの中では師匠と言える人なんですよ。今でもとっても感謝してるんです」
まさか今でも革命云々と振れ回って行動しているわけではあるまいな。

「ところでおまえ、こんなところで何してたんだ?」
革命少女の瞳が一瞬泳いだ。
「し、仕事ですよ」
…嘘だ。
「ちょっと外回りでこの辺歩いてたんですよ、そしたら会長さんっぽい人を見かけたんで…」
…嘘だ。
「そうだったのか。で何の仕事してるんだ?」
いったいそんなラフな格好で仕事なわけがないだろう。
しかもそのアニメショップの大きな手提げ袋は何なんだ?おまえは仕事中にマンガやアニメグッズを買いに行くと言うのか?
「それは…」
口ごもる革命少女。どこを見ている。何を必死に考えているんだ。
「…それは、内緒です」
「人に言えないようないかがわしい仕事でもしてるのか?」
「違いますよ!ちょっといま言うのが恥ずかしいだけです」
「恥ずかしい仕事なのか?」
「だっ、だから違いますって!いま時間がないのでそれはまた改めて別の機会に…」
革命少女は顔を紅潮させて主張する。しかし今更何を恥ずかしがる必要があると言うのだろう。
今の時代は無職でもフリーターでも自由業でも何ら恥ずかしいことでもないのだよ。
それよりも、痛車を撮影している30代半ばを過ぎたおっさんに声をかける方がよっぽど恥ずかしい行為なのではないだろうか。

「ところで師匠」
「え?」
またその呼び方をするか。
革命少女からそう呼びかけられるようになった時は大いに抵抗したのだが、結局こいつは改めることはなかったっけ。
露骨に嫌そうな表情をする会長。
「まだ“革命少女”って呼ぶんだったらこっちも“師匠”って呼びますよーだ」
「勝手にしろ」
「そう言うと思った。で、連絡先教えてくださいよ。“革命同志”として今後も共闘したいんで」
やっぱりそうか。今度は会長ががっくりうなだれる番だ。
まだ革命家キャラを続けているとは、こうなってしまった原因の一端は会長にもあるのだ。
平日の昼間から乙女ロードを徘徊し、人には言えない仕事に就いて、ふた言目には革命家を自称する。
他人の人生を弄ぶってのは良くないことだよな。やっぱり俺に責任はあるわけだよな…。
「どうかしました?」
不思議そうに会長の顔を覗き込む革命少女。
「いや、なんでもない…」
勝手に決めつけ勝手に責任感を感じ勝手に鬱になっている会長。
そんな会長の身勝手な心情を知るよしもなく、革命少女は携帯番号とメアドを赤外線通信で強引に交換する。
「わたしもういい歳なんだから、“革命少女”はやめてほしいなあ。せめて“革命女子”にでも…あ、“革命戦士”の方が格好いいかも」
そんなことはどうでもいい。
「じゃあ、わたしいったん会社に戻るんで。時間ができたら連絡しますね」
この期に及んでまだ嘘をつき通すのかこいつは。
「じゃあね師匠!またねー」
そう言って手を振りながら、革命少女は池袋の雑踏へ姿を消したのだった。


                 

(23.10.25-31)
コメント
コメントする








    
この記事のトラックバックURL
トラックバック

calendar

S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      
<< December 2017 >>

selected entries

categories

archives

recent comment

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM