【開催日】 6月7日(火)1330〜
【開催地】 原宿駅〜明治神宮〜西新宿〜新宿駅
【参加者】 帰還兵くん…眼鏡を新調してイケメン度UP
会長…遠足会主催者
思い立ったが吉日。
憂鬱な休日の朝、遠足会を開催しようと急に思いついた会長は同好会会員に緊急連絡。
しかし、急な招集に応じられる会員は限られているもの。
「あ、いいっすよ、空いてますよ。横田の帰りっすからちょっと遅れるかも知れませんが」
「横田?それって米軍の横田基地のこと?」
「…あ、なんでもないっす。忘れてください。1330には原宿駅に着きますので」
先日言っていた“任務”とは横田基地に関係することだったのだろうか。
それはともかく、今回は帰還兵くんと会長のふたりで遠足会の開催が決定したのでした。
「いやあ、明治神宮は久しぶりっす」
「わたしもだよ。前回はいったいいつ来たのか記憶が定かじゃない」
森の中の参道を歩くふたり。平日の午後のせいなのか参拝者はまばらで辺りはとても静かです。
汗ばむ程の陽気だったにも関わらず、ここはひんやりとして過ごしやすい。
「とても大都会の真っ只中とは思えないね。果てしなく続く森の中にいるみたいだ」
「天然の森に見えるけどここは人工林なんっすよ。100年で森林になるように計画されてて…」
参拝者はまばらとは言え、日本人のみならず外国人の姿も見受けられます。
欧米人のみならず、容姿は日本人に酷似してながらも異国の言語を交わす人たちも。
参拝を済ませ絵馬を眺めていると帰還兵くんがなにやら首をかしげている。
そこには中国語や韓国語、英語や欧州の文字、なにやら判じ得ない東南アジアの文字など、日本語で書かれた絵馬に混じって世界各地の文字がしたためられた絵馬が架かっています。
「よく考えてみると、ここで祀られてるのは明治天皇なんすよね」
「ああ、そうだがそれが何か?」
「これってとてつもない個人崇拝なんじゃないんですか?
古代とか中世とかならいざ知らず近代ですよ。創建からまだ100年も経ってない。
近現代での基準で考えれば毛沢東陵や金日成陵と性質は変わらないんじゃないですか?」
「うーん、そう言う視点で捉えたことはなかったな」
「中国語や韓国語の絵馬もあったけど、この神社が大日本帝国のトップを祀ってるってこと知らないんですかね?
明治天皇は日本帝国主義の創始者っすよ」
「まあ、確かにそうだな。キリスト教徒やムスリムなんかの参拝も厳密には問題ありそうだが、大陸や半島は実害被ってる当事者同士だもんなあ」
「逆に靖国神社はいいんですよ。あれは軍務従事者を祀ってるわけで、個人崇拝とは異なりますから…」
「しかし、中韓の考えることはよくわからんなあ。本質的な危険さを理解してるとは思えん。
まあ、それに関しては日本人も同じだけど。わたしも気付かんかったなあ」
「それはそうと、清正の井(きよまさのいど)って知ってますか?」
「なにその切り替えの早さ…。聞いたことあるけど、なんか流行ってるらしいね」
「パワースポットですよ、パワースポット!ちょっと行ってみたいんですけどいいっすか?」
その、清正の井は境内にある御苑の一画にあります。
清正の井を訪れるには入口で整理券を受け取らねばなりません。
きっと休みの日は長い行列ができているのでしょう。しかし、今日の閑散とした雰囲気からは全く想像がつきません。
池を過ぎ、菖蒲田を抜けると警備員に整理券を渡して清正の井へ。
もちろん行列は無く、警備員を加えても10名程度です。
「ちょっと写真撮ってきますから待っててください」と、いやに熱心な帰還兵くん。
会長はさほどの感動もないようで、周囲や見学者の様子を写真に収めています。
「これがパワースポットなのか?さほどのものではないような…」
「何を言ってるんすか!戦場では真水の確保は重要なんですよ!これをパワースポットと言わずして何と言う…」
清正の井でパワーを充填したふたりは西参道方面へ。
「こっち方面へ行ったことってないんだよね。西参道口から西新宿へ抜けてみよう」
森の中をしばらく進むと、突然拓けた場所に出ました。
「うわっ、なんだここ、まるで戦闘訓練場みたいじゃないっすか!」
「こんな場所があったんだ。しかし広いね。新宿御苑や代々木公園と違って静かな雰囲気だね」
「本当ですね、セントラルパークとは比較にならない平和な場所っす。
あそこは毎日のように殺人や強姦があってまるで戦地のような公園なんすよ」
宝物殿は開館が土日祝日なので今日は休館日。
風にたなびく日の丸を眺めながら宝物殿前のベンチでしばし休憩です。
16時頃になると宝物殿の門から職員が出てきて旗を降ろしはじめました。
あっと言う間に国旗降下終了。旗をくしゃくしゃっとまるめて抱えて門内に戻る職員。
その様子を見て唖然としていたのは、おそらくふたりが軍隊経験者だったからでしょう。
「あれはないっす。国旗に対し何と言う扱い」
「畳み方がひどすぎる。あの大きさの旗はひとりで扱うものではない」
旗の扱いについて厳しく教育されたふたりにとっては信じられないことでしょうが、娑婆での旗の扱いなんか一般的にはこの程度のものなのです。残念なことではありますが。
広大な明治神宮の敷地を抜け小田急線参宮橋駅方面へ。
北門を出てふと脇の方を眺めるとポニーが子供を乗せて歩いていました。
「会長見てくださいポニーっすよ!」
「乗馬クラブがあるのは知ってたがポニーまでいたのか。入口はどこだ?」
ポニーの広場の入口には「代々木ポニー公園」と手書きの看板が立っていました。
「ほほう。子供は無料でポニーに乗れるらしいな」
数組の親子が楽しそうにポニーと戯れていて、子供たちは大はしゃぎ。
「今度うちの子も連れて来よう。これは楽しそうだなあ」
ポニーを眺めながらぶつぶつと「戦国時代の日本の馬は…」「天皇の白馬は…」とつぶやいていた帰還兵くんですが、
はっと気がついたような表情で会長を見つめてひと言。
「そう言えば俺、馬肉って食べたことないんですよね。ウマいんですかね?」
「……それはダジャレなのか?それともわたしに奢れと言っているのか?」
(23.6.8記)